本田財団は、2021年7月10日、11日の2日間にわたり、ホンダ八重洲ビルにて、「Integrating Sustainability into Future Urban Design」をテーマに、Honda Y-E-S Online Forum 2021を開催しました。これはベトナム、インド、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュの各国で本田財団が展開しているY-E-S奨励賞の過去受賞者たちが準備委員となり、企画から運営にまで携わり、地域の課題認識、その解決に科学技術が果たすべき役割や、国境を越えた協力関係の構築などについて、日本を含むアジアの若手科学者・エンジニアが中心となって議論する場として開催したものです。
当初2020年に開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となり、2021年にオンラインでの開催となりました。日本の都市工学、交通工学、国際協力機関のスピーカー3名によるプレゼンテーション、Y-E-S奨励賞受賞者によるプレゼンテーション、パネルディスカッションを実施。また、本フォーラムに合わせて研究ポスターコンテストを開催し、コンテスト参加者によるプレゼンテーションと表彰式も行われました。
◎基調講演
基調講演は、1日目に九州大学工学部・大学院人間環境学府・キャンパス計画室教授の坂井猛博士(建築・景観設計)と東京大学生産技術研究所教授の大口敬博士(交通制御工学)が、2日目に(独)国際協力機構(JICA)社会基盤部長の天田聖氏が登壇しました。
坂井博士は、福岡市における代表的な都市計画の事例として、アジア太平洋博覧会会場跡地を活用してアジアの拠点都市形成を目指したシーサイドももち、渡り鳥が飛来する干潟の保全と港湾機能と住宅地の共生を図ったアイランドシティ、施設老朽化に伴う大学機能の集約と産学地域連携や国際交流拠点の育成を実現した九州大学伊都キャンパスの3プロジェクトを紹介。事例の解説を通して都市に担わせる機能にふさわしい計画づくりと、周辺環境に配慮した景観デザインの重要を解説し、都市デザインの実行に向けて配慮すべき点を述べました。
大口博士は、スマートシティを実現するためのモビリティの課題をテーマに、社会活動におけるモビリティの役割と、交通渋滞に代表されるモビリティが都市にもたらす諸課題を紹介。現在脚光を浴びている自動運転技術は、自動車の運転のみならず都市の様々な機能とネットワークでつながることによって、より高いレベルでの安全性が確保できるとともに、スマートシティは人々の行動や生活、社会活動を最適化するもので、自動運転はその一つの処方箋であると述べました。
2日目に登壇した天田氏は、持続可能な都市のための優れた都市管理について語るなかで、発展途上国の著しい成長の様子について、経済規模・都市開発・通信インフラ等の驚異的なスピードで進展するなかで起きる諸問題について言及。そこでJICAでは発展途上国が先進国と同じ都市課題に直面しないために、各国政府と連携して持続可能な都市開発マネジメントを推進し、途上国の人々が率先して取り組めるよう支援していると説明。ナイロビ(ケニア)、ビエンチャン(ラオス)、ダッカ(バングラデシュ)、バンコク(タイ)での事例を挙げながら、都市開発マネジメントの重要性を語りました。
それぞれの講演後には質疑応答の時間が設けられ、オンライン参加者はチャットを通して3氏に積極的に質問を行いました。
オンライン参加者の質問に答える坂井猛博士
基調講演を行う大口敬博士
基調講演を行う天田聖氏
◎Y-E-S奨励賞受賞者によるプレゼンテーション
2日目のセッション前半では、5カ国のY-E-S奨励賞受賞者が、それぞれの出身国において都市開発の持続可能性を実現するための方策をプレゼンテーションしました。
ミャンマー代表は森林や河川を活用した開発・グリーンインフラストラクチャーについて、カンボジア代表は自国での100%再生可能エネルギー化、ベトナム代表は持続可能な都市交通・都市輸送手段の検討をそれぞれ考察しました。またラオス代表は同国に多い湿地帯での都市開発の実情について、インド代表は都市の交通・照明・廃棄物など様々な事象のセンシングから得られるデータに基づいた都市開発手法につて発表しました。それぞれの発表に対し、オンライン参加者からは積極的に質問が寄せられました。
MCを務めたMr. Satyam Mohlaと、
Y-E-S奨励賞受賞者の議論の様子
◎パネルディスカッション
2日目のセッション後半はY-E-S奨励賞受賞者によるプレゼンテーションの内容に基づいたパネルディスカッションが2部に分かれて行われました。
第1部では、基調講演を行った大口博士、天田氏をはじめ、学生代表としてMs. Tran Thi To Uyen M.N(東京大学)、井澤佳織さん(東京大学)、Y-E-S奨励賞受賞者代表として、Mr. Le Yen Thanh、Mr. Satyam Mohlaがパネリストとなり、当財団業務執行理事で笹川平和財団理事長、政策研究大学院大学客員教授の角南篤博士をファシリテーターとして議論が進行しました。持続可能な未来都市デザインにおける産学官連携の重要性についての議論では、大学や研究機関は持続可能性と経済性のバランスを両立するべく、開発の旗振り役である国と実務を担う民間企業の橋渡しする役割を担うべきとする意見が出されました。
第2部では、貴重講演を行った坂井博士、学生代表として田端祥太さん(東京大学)、Y-E-S奨励賞受賞者代表として、Ms. Bindu Sancheti、Mr. Giang Truong Dinh、Dr. Kandhala Khamphila、Mr. Pyae Phyo Kyawがパネリストとなり、当財団業務執行理事で岡山大学副理事・教授の狩野光伸博士をファシリテーターとして議論が進行しました。カーボンニュートラルな都市開発における若者の役割についての議論では、「私たち学生世代はもちろん、その子ども世代以降は必ず関わらなければならない」「資源の有効利用や再生可能エネルギーの利用拡大について、私たち一人ひとりが当事者意識を持つ必要がある」といった意見が交わされました。
第1部パネルディスカッションの様子
第1部パネルディスカッションの
ファシリテーターを務めた角南篤博士
第2部パネルディスカッションの様子
第2部パネルディスカッションの
ファシリテーターを務めた狩野光伸博士
◎研究ポスターコンテスト
本フォーラム開催にあたり、持続可能な未来都市デザインをテーマとした研究ポスターコンテストが実施されました。これは、参加者にネットワーキングの機会を設けることと、彼らの研究の向上、共有することを目的とするもので、事前審査を通過した10チームがオンラインでプレゼンテーションを行いました。3名の基調講演スピーカーである坂井博士、大口博士、天田氏、Y-E-S Online Forum 実行委員、当財団理事からなる選考委員会により上位3チームが選出されました。
MCを務めたMr. Nguyen Van Quang と、
研究ポスターコンテスト発表者との議論の様子
財団業務執行理事の松本和子から表彰を受ける1位となったMs. Tran Thi To Uyen M.Nさん(東京大学)、2位となったPrashant Ram Jadhaoさん(写真左から2番目、インド工科大学デリー校)とRamdayal Pandaさん(写真左から3番目、インド工科大学デリー校)、3位となったRishabh Shuklaさん(写真右から3番目、インド工科大学デリー校) オーディエンス賞を受賞したUtsav Bhardwajさん(写真最右、インド工科大学デリー校)
◎Y-E-S Online Forum 2021 実行委員会メンバー
▼ベトナム
Le Yen Thanh
2015年 Y-E-S奨励賞受賞者
Phenikaa MaaS Technology JSC 創始者兼CEO
Nguyen Van Quang
2017年 Y-E-S奨励賞受賞者
東北大学博士課程在学中
Dinh Truong Giang
2018年 Y-E-S奨励賞受賞者
Alpha Edu 勤務
▼インド
Bindu Sancheti
2017年 Y-E-S奨励賞受賞者
Dalberg勤務 アドバイザー、分析職
Aniket Kamthe
2017年 Y-E-S奨励賞受賞者
Bain & Company勤務 アソシエイトコンサルタント
Satyam Mohla
2017年 Y-E-S奨励賞受賞者
株式会社本田技研 HondaイノベーションラボTokyo勤務
▼カンボジア
Song Vergenylundy
2018年 Y-E-S奨励賞受賞者
韓国ポリテク大学院修士課程在学中
Cheapanhasith Pel
2015年 Y-E-S奨励賞受賞者
Electricite du Cambodge勤務 技術責任者
▼ラオス
Leego VANH
2012年 Y-E-S奨励賞受賞者
ラオス、ルアンナムター県観光局(情報観光局)
Khandala Khamphila
2009年 Y-E-S奨励賞受賞者
ラオス チャンパサック大学農林学部 講師
▼ミャンマー
Pyae Phyo Kyaw
2015年 Y-E-S奨励賞受賞者
VEI マンダレーWaterWorX プロジェクトコンサルタント
Suu Malar Win
2016年 Y-E-S奨励賞受賞者
Myanmar Koei Int'l Ltd ジュニア環境社会専門職